『背中―工房独語』 相應窟・助田茂三翁
2022.01.24
親鸞仏教センター東研究員が過日来寺された際に頂戴し、その後に助田茂蔵(すけた しげぞう・福井県鯖江市)氏のご子息篤郎氏が恵送くださった本は、言葉にならないほどに深い。地に足が着いた、自分の足で歩まれた人ならではの分厚さと、父茂蔵氏・母小芳氏を尊崇する篤郎氏の姿勢にうたれる。近々取り寄せるのであらためて案内するが、篤郎氏の「生活の中にこそ佛の教えが満ち溢れていることに驚き、感謝し、讃歎する晩年のにちにちであり、市井の念仏者の変遷です」の一文が何の気負いもなく一冊を語っている。飄々とした軽さと温かさと鋭さが一冊に凝縮されている。
かつて石川県鍋谷の具足舎に林暁宇先生を助田夫妻が訪れた際の逸話を聞いたことがある。体調悪く寝室で休んでいた林先生がしばらくたってから、兼六室(居室)にお出ましになるや否や、ご夫妻揃って、座布団から下りて深々とお辞儀をされたという。座布団から下りる。ただそれだけのことが身につくまでにどれほどの年月を要するのであろうか。どれほどのお育てに遇われたのだろうか。
仏道とは、実にただそれだけのことではないか。そして、ただそれだけのことがとてつもないことだと最近思う。南無阿弥陀仏。